イギリスでお部屋を賃貸する場合に家賃の他に必要になるお金がデポジットです。
基本的には退去時に家賃の滞納や部屋や物件に目立った損傷がなければ全額返金されます。
このデポジットが返金されないというトラブルは賃貸トラブルにおいてとても多いです。
デポジットに関する法的な取り決めがあるので、それを理解した上で家主とのトラブルがあった場合に適切な措置を取ってください。
※この記事で言及される事柄はイギリスのイングランドで当てはまるものなので、他の地域では多少異なる場合があります。
- Deposit (デポジット)とは
- Holding Deposit (ホールディングデポジット)
- デポジット支払い後の行方
- TenancyとLodgerの違い
- Lodgerには2タイプある
- 大家と同居でもLodgerとは限らない
- Deposit Protection Scheme
- 退去時におけるデポジットの清算
- Tenancyデポジットが返金されない場合
- Lodgerのデポジットが返金されない場合
- TDP不使用の場合は強制退去不可
- 困った時の相談窓口
- まとめ
Deposit (デポジット)とは
デポジットとは入居時に担保として払うお金。
日本でいう敷金のようなもの。
家賃の滞納や部屋の損傷がなければ退去後10日以内に全額返金される。
Holding Deposit (ホールディングデポジット)
入居日までにまだ少し期間があり部屋を予約したいときに、確約するために払う手付金。
Holding Depositの金額は法律上、家賃の1週間分が上限となっている。それ以上請求するのは違法(*Tenant Fees Act 2019に違反)。
実際に予定通り入居した場合は、Depositと合算され、退去時に払い戻される。
予約していたのに入居をキャンセルした場合はHolding Depositは没収される。
参照: If your holding deposit is not returned - Shelter England
*Tenant Fees Act 2019: 貸主が借主に請求できる料金の法的な取り決め(以下の記事を参考にどうぞ)
デポジット支払い後の行方
デポジットは入居日に支払われるが、契約形態がTenancy(Assured Shorthold Tenancy Agreement)である場合はその後家主は30日以内にDeposit Protection Schemeに預金してテナントのデポジットを守らなくてはならない。
家主と同居していて契約がLodger Agreementの場合は家主はこのDeposit Protection Schemeを使用する義務はない。
参照:
Tenancy deposit protection: Overview - GOV.UK
Check if your landlord has to protect your deposit - Citizens Advice
Return of a lodger's deposit - Shelter England
TenancyとLodgerの違い
Tenancy(Assured Shorthold Tenancy Agreement)
基本的には家主と同居ではない、あるいは物件において共有する部分がなく、一定の期間で、家賃を支払い、物件の全部または一部を占有する権利を有する場合。{houseやflat一軒/1 room flat/studio/flat share(*HMO)の一室}を個人大家またはエージェントから賃貸する場合にはこの契約形態。
*HMO(House in Multiple Occupation): 2世帯以上3人以上が同居する物件。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
Lodger(Lodger Agreement)
基本的には家主と同じ物件に住む、あるいは物件で共有する部分があり、物件の一部を占有する、あるいは占有権はないが居住する許可を得ている場合。
Lodgerには2タイプある
excluded licence(excluded occupier)
大家が主な住まいとして住む物件に、宿泊者は賃貸あるいは無賃で住み、物件のどこにも宿泊者が排他的に占有するスペースがない。宿泊者の部屋に大家が自由に入室できる場合。
excluded tenancy(subtenant)
大家が主な住まいとして住む物件に、宿泊者は賃貸し、物件内に大家との共同スペースがあり、宿泊者は自分の部屋に対して排他的な占有権を持つ。宿泊者が自分の部屋に鍵をかけられる、あるいは占有権を契約書にて認められている場合。
参照: What rights do lodgers have? - Citizens Advice
大家と同居でもLodgerとは限らない
大家は自分が所有し住んでいる物件に同世帯ではない他人をLodgerとして最大2人まで住まわせられる。
それ以上の人数の大家と同世帯ではない人を住まわせる場合には、その物件はHMOになり得るので契約形態はTenancy(Assured Shorthold Tenancy Agreement)になる。
契約がASTの場合にはDeposit Protection Schemeの使用は義務となっています。
また、同じ物件に大家以外の2世帯以上3人以上の他人が住む場合はHMOとなり、5人以上が住む場合にはLargeHMOとなる。LargeHMOの場合にはHMOのLisenceは必須です。(カウンシルにより多少異なる場合あり。)
参照: Live in landlords and HMOs
Will taking in a lodger turn your property into an HMO? – Lodger Landlord
家主が用意した契約書に書いてあるラベルが実際の居住状況と異なっている場合がある。
借主の権利を弱くするためにわざと間違ったラベルを契約書に掲げている不当な家主が稀にいます。
Assured Shorthold Tenancy Agreementは借主が守られる権利が強いために、実際にはASTの形態で住むのにも関わらず、契約書のラベルを”Licence to Occupy”と記載している大家にあたったことがあります。弁護士に相談した際に”Tenancy”と”Licence”では意味が異なり、契約書のラベルが実際の居住状況と違うことを指摘されました。
間違ったラベルが契約書に記載されていた場合でも、実際の居住状況によって裁判所は契約形態を判断します。
参照: Shelter Legal England - Tenancy and licence agreements - Shelter England
Deposit Protection Scheme
テナントのデポジットは政府が定める3つのSchemeの内のどれかによって守られなければならない。
契約形態がASTの場合(ほとんど全てのHMO物件が当てはまる)、家主はテナントからデポジットを預かったら30日以内にtenancy deposit protection (TDP) schemeを利用して第三者期間に預け、テナントにそれを知らせなければならない。
以下の3つの中から1つのTDPスキームを家主が選択して利用する。
賃貸契約を終了する際、終了後10日以内に家主はテナントにデポジットを返金しなければならない。
出典: GOV.UK
家主はテナントのデポジットに手をつけてはならず、テナントのデポジットは退去時までDeposit Protection Schemeにて守られている必要がある。
家主はスキームに入金後、テナントに下記のようなcertificate(証明書)を提出する。
退去時におけるデポジットの清算
退去後(賃貸契約終了後)、家賃滞納や部屋の損傷などがなければ、10日以内に全額テナントに返金される。
テナントにより家主が被った損害をカバーするためにデポジットから適切な金額が差し引かれる場合がある。
デポジットが返還されず納得がいかない場合には訴訟を起こすことができ、裁判所の決定が下されるまではDeposit Protection Schemeによってデポジットは保護され続ける。
デポジット没収の合理的理由
デポジットを返却しない合理的な利用として以下が挙げられます。
- 退去時に家賃の滞納分をカバーするため
- テナントの故意・過失による物件や家具の損傷(経年劣化を除く)
- 退去後に部屋が汚い場合、掃除にかかる費用をカバーするため
- 退去後にテナントの私物を置いて行った場合その物の撤去・処分にかかる費用をカバーするため
- テナントが適切な方法で退去を通知せずに夜逃げした場合に家賃の残りをカバーするため
基本的にはデポジットは家賃の支払いには使えないが、退去時に滞納があった場合は滞納分の家賃や光熱費をカバーするために没収される。
参照: What can a landlord keep from your deposit? - Shelter England
Deposit deductions and disputes | The Tenants' Voice
Tenancyデポジットが返金されない場合
デポジットが全額返却されずに、納得のいく理由が見つからない場合、以下の行動に移ってください。
- Deposit Protection Schemeを通して異議申し立てをする
- もしDeposit Protection Schemeによってデポジットが守られていなかった場合、それを家主に追求・交渉する
- Deposit Protection Schemeで守られていなかったことを理由に訴訟を起こす
1. Deposit Protection Schemeを通して異議申し立てをする
どのスキームを利用していたのかは家主から証明書を受け取っているはずなので、分かります。そのスキームの運営機関に連絡を取って異議申し立てを行ってください。
賃貸契約の終了日から3ヶ月以内に異議を申し立てる必要があります。
参照:
How to dispute unfair deductions - Shelter England
How long do I have to raise a dispute? - Tenancy Deposit Scheme
Getting your tenancy deposit back - Citizens Advice
2. デポジットが守られていなかった場合、それを家主に追求・交渉する
3つのDeposit Protection Scheme全てで自分のデポジットが守られている(いた)かを確認できます。スキームのサイト上で入居日やデポジットの額などの情報を入力して、確認してください。サイト上で確認できない場合は、各スキームの連絡先にメールで問い合わせてください。
下記の3つの機関に連絡して、あなたのデポジットが守られていない証拠を揃えてください。
自分のデポジットが守られていない(いなかった)証拠が揃ったら、それを家主に突き付けてみてください。違法なことをしているという自覚がある家主なら観念してデポジットを返却してくれるだろう。
ただし、図太い家主だと、どうせテナントは訴訟なんて面倒なことしないだろうと鷹を括ってくる可能性があります。その場合は訴訟の手続きに移ってください。
3. 訴訟を起こす
上記に記載した方法で3つのDeposit Protection Schemeのどれにも自分のデポジットが守られていない証拠を集めたら、訴訟を起こせます。
最大でデポジットの3倍までの額を請求できます。
訴訟を起こすことを決めたら、家主にその旨を手紙によって通知ましょう。
この際に家主が観念してデポジットの返却を行う場合もあります。
そうなれば、裁判を起こさなくて良くなりますので裁判費用を払わなくて済みます。
自力でも訴訟の申請は出来ますが、弁護士に依頼するほうが安心かと思います。
弁護士を雇う費用なんてないという人のために"No win, No fee"のデポジット訴訟に特化した弁護士派遣サービスが存在します。
訴訟に勝った場合にのみ弁護費用を獲得金から%で支払うというもの。
選ぶ弁護士のグレードによって金額が変わります。
自力で訴訟を起こす場合はN208という政府指定のフォームを自分の住んでいる地区の裁判所にあなたの主張を裏付ける証拠と共に提出します。
訴訟を起こす際に£308の費用がかかります。原告側が勝てば被告側がこの費用を判決後に原告側に払い戻しますが、原告が負ければ費用は返ってきません。
Lodgerのデポジットが返金されない場合
契約形態がLodgerの場合は家主はDeposit Protection Schemeの使用義務がないので、デポジットがスキームによって守られていないでしょう。
デポジットが返金されない場合は訴訟という選択肢しかありません。
Tenancy Depositと少し異なり、訴訟にはN1というフォームを提出するようです。
TDP不使用の場合は強制退去不可
余談というか補足情報として、大家によってテナントが退去させられる際の話。
大家の都合によってテナントが退去させられる場合には、セクション21という通知によって正式に退去を要請されるのですが、もしもデポジットがTDPスキームによって適切に守られていなかった場合には、この正式なセクション21通知による追い出しができないとされています。
テナントにデポジットを返却するまではセクション21通知によって退去させることはできないようです。
参照:
Check if your landlord has to protect your deposit - Citizens Advice
困った時の相談窓口
デポジットが返却されないという問題に直面したときには、以下の機関に相談してアドバイスを得ると良いでしょう。
ただ、これらの機関は助言を与えてくれるだけなので、訴訟の手助けまではしてくれません。
- Citizens Advice
- Shelter
まとめ
デポジットは家主の財布に入るのではなく、Deposit Protection Schemeによって守られなければなりません。
しかし、Lodger Agreementである場合にはデポジットをDeposit Protection Schemeで守る義務がありませんのでご注意を。
ここを勘違いしないようにしましょう!
また、大家と同居している場合でも、大家以外の3人以上の別世帯の人間が同居している物件ではTenancy(AST)になるのでDeposit Protection Schemeの使用義務が発生します。
もしもデポジットが不当な理由で返金されない場合には、Citizen Adviceに相談してみてください。
もし契約がTenancy(AST)であればDeposit Protection Schemeで守られているはずなので、使用されているSchemeを通して異議申し立てを行ってください。
また、Tenancy(AST)であるにも関わらずDeposit Protection Schemeでデポジットが守られていない場合には、その時点で違法なので証拠を集めて訴訟を起こすことができます。
訴訟は費用さえ払えば個人で起こすことはできますが、デポジット訴訟に特化した弁護士サービスの利用を考えても良いと思います。
何より、トラブルが起こらないように物件と家主選びは慎重に行ってください。
↓物件探しで役立つ過去記事↓