イギリスの賃貸物件をエージェントや個人大家から借りる際、テナントが無知では足元を見られます。
また、エージェントも大家も法律で決められている規則を知らない人が結構存在します。
ライセンス必須の物件なのにそのライセンスを申請していないと思われる大家も相当多いです。
貸す側も借りる側も無知だからトラブルが多いんですね。
10回引っ越し11軒のフラットに住み、賃貸トラブルを幾度となく経験して学習した知識を共有します。
知識を得て自分の権利は主張していきましょう。
この記事で言及する事柄は主にイングランドでの話なので、その他の地域では制度が異なる場合があります。
- TenancyとLicence
- Tenant Fees Act 2019
- Houses in multiple occupation (HMO)
- HMO (フラットシェア)における家主の義務
- HMOの設備基準(例: Hackneyの場合)
- 家主が義務を怠った場合
- 家賃の値上げ
- Case1. 家主から家賃の値上げを提案される
- Case2. 家主が新しい契約書を提示
- Case3. 契約書に家賃見直し条項がある
- Case4. セクション13通知を受け取る
- 立ち退き
- まとめ
TenancyとLicence
Tenancyである方が借主がより守られる法律や条例がある。
それを回避するために意図的に契約書をLicenceとしている大家やエージェントが存在する。
ちなみに私の10軒目の大家がそうです。
しかし、契約書のラベルではなく実際の居住状況によってTenancyかLicenceであるかは判断されます。
参照: Shelter-"Sham agreements"
Citizens Advice-"Sham tenancy agreement"
契約がTenancyである条件
- テナントが独占的に占有するスペースがある
- ある一定の期間
- 家賃を払い賃貸である
参照: Shelter
賃貸で暮らしている大家と不同居の人は基本的にはAssured Shorthold Tenancy(AST)の形態のはずです。
この記事ではASTであることを前提に、テナントが不当な家主から守られるための法的な取り決めについて書いています。
下記のサイトで自分の契約形態がTenancyに当たるか実際の居住状況からチェックすることができます。
Tenant Fees Act 2019
賃貸に置いて貸主が借主から徴収してもいい料金が法律で決められています。
その条項が"Tenant Fees Act 2019"です。
貸主が借主に請求できる料金
家賃
年間の家賃総額が£50,000未満の場合、家賃の5週間分を上限とする返金可能なデポジット。年間の家賃総額が£50,000以上の場合は6週間分が上限
家賃の1週間分以内を上限とする返金可能なホールディング・デポジット(物件を予約するための)
テナントの都合による賃貸契約の早期終了に関連する支払い
借地権の変更、譲渡、または更改に対して、50 ポンド (またはそれより高い場合は合理的に発生する費用) を上限とする支払い
公共料金、通信サービス、テレビのライセンス、カウンシルタックスに関する支払い
家賃支払いの遅延や紛失した鍵/セキュリティ装置の交換に対する料金
上記の目的以外で金銭を請求された場合は違法です。
つまり、退去時の部屋のクリーニングにかかる費用や、通常掃除のためにクリーナーを雇う費用、害虫駆除にかかる費用、家具家電や物件の修復にかかる費用などを請求されたら、(テナントの故意/過失によるものではない限り)法律に則って断っていいということ。
支払ってしまった場合はカウンシルにレポートしたり裁判を起こす形で取り戻せる可能性があります。
修復や清掃にかかる費用については、明らかにテナントの責任と言わざるおえないようなダメージについては入居時に支払ったデポジットから徴収される可能性がある。
その辺はケースバイケースなので困ったらCitizen AdviceやShelterに相談してみましょう。
Housing advice from Shelter - Shelter England
Houses in multiple occupation (HMO)
フラットシェアと呼ばれる宿泊施設は、正式にはHouse in Multiple Occupation(HMO)という。
HMO
- 2世帯以上で3人以上のテナントが、キッチン、バスルーム、トイレを共有する家全体またはアパート
Large HMO
- 少なくとも5人のテナントが住んでおり、2世帯以上を形成し、トイレ、バスルーム、キッチン設備を他のテナントと共有する家全体またはアパート
- Large HMOに住んでいる場合、家主は特定の基準と義務を満たさなければならない
- 全てのLarge HMOにはカウンシルからのライセンスが必要
- 家主が無免許のHMOを運営している場合、カウンシルによって起訴される
- 家主がカウンシルにより起訴された場合はテナントは家主に対して家賃の一部返還を裁判で要求できる可能性がある
HMO (フラットシェア)における家主の義務
テナントの安全と健康を確保するための基準や、ガスや電気、施設の管理や、提供するべき設備などに基準が定められています。
家主の満たさなければならないHMOの基準や義務はカウンシルによって多少異なります。
自分の住む地域がどのカウンシルに属するのかは政府のサイトで確認できます。
Hackneyを例にしてテナントが知っておくべき項目を下記で解説します。
HMOの設備基準(例: Hackneyの場合)
出典: Private Rented Property Licensing Accommodation Standards
上記はHMOだけではなく全ての個人賃貸物件の宿泊施設の基準が含まれる。
部屋のサイズの最低基準
共有キッチンが別の部屋にある部屋
1人で利用: 8.5㎠
2人で利用: 13㎠
部屋内に専用キッチンのある部屋
1人で利用: 13㎠
2人で利用: 18㎠
火災対策の基準
- 有線の電源で作動する煙探知機警報機
- 最低1つの探知機を各フロアの適切な場所に設置する
- キッチンにはファイアーブランケットを常備する
- 避難経路を確保するために廊下に障害物を置いてはいけない
暖房設備の基準
- 全ての施設には断熱と暖房が必要
- セントラルヒーティングまたは電気ヒーター
- 暖房は居住者が制御出来る必要がある
- 外の気温が−1℃の場合、リビングルームは21℃、ベッドルームは18℃であるべき
キッチン設備の基準
住人が5人以下: 4つ口のコンロ、オーブン、グリル
住人が6人以上: 4つ口のコンロ、オーブン、グリル、電子レンジ
冷蔵庫は世帯ごとに、小さな冷蔵庫と冷凍庫
バスルームの基準
住人が4人以下: 洗面台付きのバスとトイレ
住人が5人: 洗面台付きのバスとトイレ、追加の洗面台付きトイレ
住人が6人〜10人: 2つの洗面台付きバス、2つの洗面台付きトイレ
家主が義務を怠った場合
家主がカウンシルの定めるHMOの設備基準を満たしていない、または義務を果たさない場合はカウンシルに報告してください。
Hackneyでは専用の窓口が設けられています。
Contact the private sector housing team
020 8356 4866 (Mon to Fri, 9am – 4pm)
家主へのペナルティと訴訟
以下に該当する場合は家主は最大で£30,000の罰金、テナントは家主に最大で12ヶ月まで遡って家賃の返金を請求(Rent Repayment Order)できます。
- 家主がライセンス必須の物件であるにも関わらずlarge HMOライセンスを申請/更新していない
- 家主がカウンシルによって提供された改善通知に従わない
- 家主がカウンシルによって提供された禁止命令を遵守しない
- 家主がテナントの財産へアクセスするために暴力を行使した
- 家主がテナントを不法に立ち退かせたり、テナントの財産に嫌がらせをした
- 家主は禁止命令に違反した
出典: hackney.gov.uk
家主がライセンスを持っているかはカウンシルに連絡すれば答えてくれるはずです。
カウンシルはHMOとして届けられた物件の一覧を持っています。
webサイトで公開している場合もあります。
Rent Repayment Orderは裁判になるが、その筋専門の弁護師派遣エージェントがあります。
"No Win, No Fee"で裁判に勝った場合にのみ、勝ち得た金額から数十%を報酬として支払うサービス。
デポジット訴訟
家主がデポジットを返さない場合にも訴訟を起こして、デポジットを取り返す手段がある。
デポジット保護の規則
契約形態がASTの場合(ほとんど全てのHMO物件が当てはまる)、家主はテナントからデポジットを預かったら30日以内にTenancy Deposit Protection (TDP) schemeを利用して第三者期間に預け、テナントにそれを知らせなければならない。
以下の3つの中から1つのTDPスキームを家主が選択して利用する。
賃貸契約を終了する際、終了後10日以内に家主はテナントにデポジットを返金しなければならない。
出典: GOV.UK
家主がこの TDP schemeを利用していない場合は、テナントは家主に対してデポジットの額の最高3倍までの金額を請求する訴訟を起こすことができる。
Rent Repayment Order同様、デポジットのrepayment専門の弁護エージェントがあり、"No Win, No Fee"で請け負ってくれる。
体験談
実はこのデポジット訴訟を起こそうとしたことがある。
デポジットが退去後20日もの間返却されなくて、そもそも大家が信用できなくて不満で退去したので訴訟を起こして思い知らせてやると思った。
調べたところ、どのスキームにも私のデポジットは入っていなかった。
退去後にデポジットが返却された場合でも家主がTDP schemeを使用していなかったことが証明できれば訴訟が起こせる。
デポジット専門の弁護師派遣エージェントに相談して、契約書を読んだところでふと不安になった。
実はこの大家に直接あったことがなく、いつもテキストでしかやりとりしていなかった。
ビューイングの時に案内してくれた人が大家だと思っていたら、大家の友達で無償で手助けしてるだけの人だと実際に住んだ後になって知った。
もうこの時点でだいぶおかしいから早めに手を打つべきだった。
大家の名前と住所と電話番号は知っていたが、住所がどうやら嘘臭かった。
相手がこの国に存在しているのかも定かではない、訴訟で勝ったとしても相手に支払い能力がなかったら、外国籍の大家だったので国外逃亡されたら、裁判費用とエージェントへの成功報酬は全部私持ちになる。
リスクが高すぎるし、調べたり悩んだりでストレスで精神衰弱し、夫とも口論になり、結局訴訟を諦めた。
いつも思うが、法律があっても実際にはそれが適切に機能しない。
弱者は法を手にしても尚、弱者だと痛感し、とても悔しかった。
家賃の値上げ
殆どの個人テナント契約では、次の場合に家賃を上げることができる
- テナントが新しい家賃に同意する
- テナントが新しい契約に署名する
- 契約書に家賃見直し条項がある
- 家主から家賃の値上げに関するセクション13の通知を受け取る
家主の家賃の値上げ方法によっては、家賃の値上げを拒否または異議を申し立てることができる。
出典: Shelter
契約形態によって規則が異なる場合があるので、自分の契約形態を確認してください。
契約形態の説明
Tenancy Agreement(Assured Shorthold Tenants): 基本的には大家不同居あるいは大家と共有する施設はない物件(HMOはこの位置ずけ)
Lodger Agreement: 大家同居でキッチンやバスルーム、リビングルームなどを大家と共有している物件
Fixed Term: 契約終了日が決まっている期間固定の契約
Periodic Term: 契約終了が決まっていない月毎自動更新の契約
ちなみにLodger Agreementの場合は大家はDeposit Protection Schemeを利用する義務を負いません。
立ち退きや家賃の値上げに関してもTenancy Agreementよりも借主の権利が比較的弱いので信頼できる大家さんとだけ契約してください。What rights do lodgers have? - Citizens Advice
Case1. 家主から家賃の値上げを提案される
家主が口頭または電話やメールによって、家賃の値上げを宣告した場合、テナントは従う必要がない。
正式な法的通知がない場合は家賃の値上げに同意する必要がない。
不満があるのに値上げされた家賃を払い始めた場合は、同意したとみなされる。
Case2. 家主が新しい契約書を提示
家主が値上した家賃が適応される新しい契約を提示する場合、テナントにあらかじめ通知する必要がない。
テナントがPeriodic Tenancy(契約終了日の決まっていない契約)の場合は、新しい契約に同意する必要はなく、現在の契約を継続し、家賃は変わらない。
Fixed Term Tenancy (契約期間が固定の契約)では、その契約期間内でテナントの同意が得られない限りは家賃をあげることはできない。
また、固定期間が終了した後について契約書に書かれていない場合における新たな契約で家賃の値上げを提示する場合は、家主はセクション13通知の利用が必要。
↓Fixed Term Tenancyの契約期間終了後の選択肢について
Case3. 契約書に家賃見直し条項がある
家賃の見直し条項が契約書に書かれている場合、どのタイミングでどれだけ値上げできるのか、また値上げの通知する期間が書かれているであろう。
通常、Periodic Tenancyの場合、家賃の値上げは最高で1年に1度、通知期間は最低でも1ヶ月前とされている。
家賃の見直し条項がある場合にも、家主は正式な手順(Section13通知)を踏む必要がある。
Case4. セクション13通知を受け取る
家主はセクション13通知という法的拘束力のあるフォームを利用してテナントに正式に通知することで家賃の値上げが可能となる。
年に1度だけこの通知を利用できる。
少なくとも家賃の値上げ開始日よりも1ヶ月前に通知しなければならない。
この通知は法的に有効なものなので、これが提出された場合は家賃の値上げがほぼ確実に執行されます。
家賃の値上げの適応が可能になるのは、Fixed Term Tenancyの場合は、固定の契約期間終了した翌日から、Periodic Tenancyの場合は入居開始から1年後。
新しい家賃の支払い開始日は、元々の家賃の支払日でなくてはならない。
もしテナントが家賃の値上げに異議申し立てをしたい場合にはFirst Tribunal(法廷)に適切な書類による申請を行う。
これはsection13通知期限が切れるまでに申請しなくてはならない。
裁判所は値上げされた家賃が妥当な金額であるかを同じ条件の物件などを参考に調査して判断する。
その結果による裁判所の判決では、家主が提示した値上げされた家賃よりも低いが元の家賃よりは高くなる(結果多少値上げされる)場合や、家主の提示額よりも高い家賃を言い渡される場合もある。
テナントがセクション13通知に対して裁判で異議申し立てをした場合は審判が降るまでは家賃の値上げは実施されないが、現行の家賃は支払い続ける必要がある。
裁判所の判決で値上げが決まった場合には、セクション13通知の期限が切れた時に遡って値上げされた家賃を支払う必要がある。
参照:
Rent increases - Shelter England
Dealing with a rent increase - Citizens Advice
立ち退き
多くのHMOに住むテナントはAssured Shorthold Tenantsと呼ばれる契約形態のはずなので、この場合の立ち退き規則について以下で紹介する。
テナントが家賃の値上げに同意しない場合に立ち退きを命じられる恐れがあるが、家主がテナントを立ち退きさせるには正式な通知によって行われなければならない。
法廷手続きをせずにテナントを立ち退かせようとする場合は違法な立ち退きに該当する。
法的理由のない立ち退き
セクション21通知により賃貸契約を終了させる旨をテナントに正式に通知する。
立ち退く理由を必要としないため、テナントに落ち度がなくても家主の希望のみで通知できる。
この通知は通常は立ち退き日の最低2ヶ月前に通知される必要がある。
※コロナ危機下においては通知期間が延長されている。
Fixed Term Tenancyの場合には固定の契約期間終了後、Periodic Tenancyの場合には入居後4ヶ月が経過している場合にのみこの通知を発行できる。
通知期間終了時にテナントの立ち退き準備が出来ていない場合は立ち退きを強制出来ないが、家主はさらに裁判所に申請することができる。
法的理由のある立ち退き
テナント側に明らかな落ち度(法的な理由と根拠)がある場合は、セクション8通知により賃貸契約の終了、立ち退きができる。
家賃の滞納が8週間(2ヶ月)以上ある場合は立ち退きを命令することができる。
通知期間は退去理由または家賃の滞納期間によって異なる。
家賃滞納が2ヶ月以上ある場合、通常の通知期間は2週間。
反社会的行為が理由の場合には通知期間がさらに短い、あるいは通知期間がいらない。
参照:
Eviction of assured shorthold tenants - Shelter England
まとめ
今回の内容はややこしいので、わかりやすく解説できていないかも知れません。
HMO (フラットシェア)に住んでいる大家と不同居のAssured Shorthold Tenantの人であれば今回の記事の内容は全部当てはまるはず。
その他の人は参考にできる点と少し異なる点があるはず。
これをきっかけにご自分でも調べてみるとより理解が深まります。
今回はHMOの基準でHackneyを例にあげたが、Hackneyはテナントの権利を守り、不法なエージェントや大家に対する対策を強化しているという印象を受けました。
他のカウンシルでは相談窓口が専用に設けられてなかったりします(見つけづらいだけかも知れない)。
余談ですが、私が以前問題しかないフラットに住んでいた際、そこはカウンシルがTower Hamletsだったのですが、彼らは全く対応してくれなかったです。
あとIsringtonカウンシルの対応もひどかったです。
Tower HamletsカウンシルはCitizen Adviceもすごく不親切で最悪でした。
Citizen Advice体験談はこちら↓
とにかく、それぞれ自分の住んでいる地区のカウンシルの基準をしっかり確認してください。
大まかな基準は同じだけど、部屋の広さとか冷蔵庫の文言とか細かい部分が少し異なります。
カウンシルのwebサイトにいけばHMOの設備の基準に関する情報が提供されているはずです。
すごく見つけづらいですが。
不法なエージェントや大家に当たった時には証拠を押さえてカウンシルに通報してください。
乱れた賃貸市場の掃除にご協力お願いします。